韓国ソウル 暮らしノート

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一人暮らしでも結婚でもない同居生活を描いた韓国エッセイ『女ふたり、暮らしています。』

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今日は韓国のエッセイをご紹介したいと思います。

女ふたり、暮らしています。(原題:여자 둘이 살고 있습니다)

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『女ふたり、暮らしています。』(原題:여자 둘이 살고 있습니다)は、昨年韓国語で読み、とても印象的だった本です。

ずっとブログでブックレビューを書きたいなと思いつつ後回しになってしまっていたのですが、このたび邦訳版が発売されると聞き、良い機会と思ったので記事を書くことにしました(記事を書いているうちに邦訳が発売されたので、早速Kindle版を購入して読み直しました)。


※本記事の引用は全て日本語版である『女ふたり、暮らしています。』(キム・ハナ、ファン・ソヌ著、清水 知佐子訳)から行ったものです。

結婚でも、一人暮らしでもない暮らし方

作者は、コピーライター出身で、コラムニストやラジオパーソナリティーとして活動しているキム・ハナさんと、ファッションエディター出身で、現在は別の業界でコンテンツ制作を行うファン・ソヌさん。

2人はともに40代の女性。彼女たちは恋愛関係にあるわけではなく、友人同士です。

長期間一緒に住むことを前提に、二人でローンを組んでマンションを購入。ソウル 望遠洞(カフェなどが多いおしゃれなエリアです)に、2人と猫4匹とで暮らしています。


家探しからはじまり、インテリアのこだわり(本に挿入されている実際の部屋の写真が素敵なこと)、初めての大きなけんか「ティファール事件」、初めて一緒に過ごすクリスマスや正月、家事の分担。そして4匹の猫たちのこと。

そんな二人のドタバタ、でも楽しい同居生活をユーモアを交えながら綴ったエッセイ集です。

ひとり暮らしと、同居のいいとこどり

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女性2人暮らしの生活は「ひとり暮らしの喜びと同居の利点の両方がある」そうです。

同居人と暮らして二年が過ぎた。満足度は最高レベルだ。(中略)家事の分担は絶妙にバランスが保たれている。夜、さて寝ようかなと横になった時、同じ空間に誰かがいると思うだけで緊張がほぐれる。互いの気配で自然に目が覚め、家の中で毎日交わされるあいさつ(おはよう、おかえり、行ってきます!)によって、日常に活気が吹き込まれる。

誰かと暮らすことの楽しさ。そうだよなぁと同感します。

そして、女性の一人暮らしは防犯上不安なことが多いので、誰かが待つ家に帰る、寝る時に誰かが同じ家にいるというだけで安心感を感じられるものです。


それでは、結婚しないで誰かと同居することの利点は?

それに、最高にいいのは、私たちは今も「シングル」だということだ。お正月や秋夕〔陰暦の八月十五日、中秋〕になると、それぞれの実家に帰る。双方の両親は、私たちが一緒に暮らしていることにとても満足している。

(中略)

料理上手な同居人のお母さんは、私の好きなお惣菜を作って送ってくれる。私は、わざわざ訪ねていったり、親孝行のための旅行を計画する必要もなく、「おいしかったです!」とひとこと言えばいい。

韓国人であれ日本人であれ、この「相手の両親」との距離感を羨ましいと思わない既婚女性はいないのではないでしょうか笑。

誰かと生活を共にする苦労

著者のキム・ハナさんとファン・ソヌさんは、同い年。同じく釜山出身で大学時代にソウルに上京している、興味や関心がある分野も似ているなど、驚くほど共通点が多い友人同士でした。

まさに、一緒に暮らすのにこれ以上無いくらいのパートナーだったわけです。

それなのに、実際一緒に暮らし始めてみると衝突も多かったそうです。


例えば、キム・ハナさんは、ものをあまり持たないミニマリスト。ファン・ソヌさんは、逆に、ものをため込み、掃除や整理整頓が苦手なマキシマリスト。

物の管理についてはかなりもめたそうで、その他にも性格の違いや、ライフスタイル、家事の分担などでも行き違いがあり、大げんかも何度もしたそうです。


そして、キム・ハナさんがたどり着いた結論。

同居人の上司だった『WKorea』のイ・ヘジュ編集長が結婚生活についてこんなことを言っていたという。「ふたりで暮らすのも団体生活よ」。同居人としていちばん大切な資質は、互いのライフスタイルが合うか合わないかよりも、共同生活のために努力する気持ちがあるかどうかにかかっている。

(中略)

相手を変えようとすることは争いを生むだけで、そもそもそれは不可能なことだ。ふたり一緒に同じ目標のために努力すること、それがまさに団体生活に必要なチームスピリットだ。


結婚する前に、既婚者の先輩から「良くも悪くも、夫婦は運命共同体」と言われたことがありました。そのころはぴんとこなかったのですが、実際に夫と暮らし始めてみてそれを嫌というほど感じています。

一人暮らしは責任があるぶん自由です。二人になったら、心強いけれど、チームとして動くには、時に自分の意見を曲げたり譲歩したり、やりたいことを諦めたりしなければならないこともあります。そんなことを考えるようになった私に、ことさら染みた文章でした。

もちろん、これは結婚だけでなく、誰かとの共同生活についても言える話ですよね。

結婚しなくても大丈夫だよと、「結婚していない人」に言って欲しかった

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ファン・ソヌさんは、三十歳を超えた頃から、周りの人々が「まるで天気や南北関係について話すかのように」ぶしつけに結婚の予定について聞いてくるようになったそうです(私を含む、日本の多くの女性にとっても「あるある」だと思いますが)。

その現象を分析し、やがてそこから解放された話を綴る「結婚していないからわかるんですが」という一篇はとても印象的でした。


この年になるまで結婚せずにいてよかったのは、世の中が教えてくれない秘密を一つ知ったことだ。それは何かと言うと、結婚しなくても別にどうってことはないという事実で、実際、今のところ大事には至っていない。

(中略)

時が過ぎて、自然とわかるようになった。私が不安で焦っていたのは、結婚できないからというよりも、「結婚できないお前に問題がある」「このまま結婚せずにいたら、大変なことになる」と不安をあおり、焦らせ、脅した人たちのせいだということを。


私自身の話になりますが、27、28歳ごろ、周囲で結婚ラッシュが起きました。

それまで特に強い結婚願望もなく、漠然と「いつか結婚するんだろうな」と思っていた気持ちが、急に焦りに変わり、端的に言うとかなりこじらせていました。

親や親戚からのプレッシャーはありませんでしたが、早く結婚した友達の「女はやっぱり愛されるのが一番だよ」という言葉や、会社の先輩や上司の「結婚しないの?」という言葉にいちいち傷ついていたんですね。どれもこれも、結婚しない人間は価値がないと言っているのと同じでしたから。

当時私の周りにいた年上の友人といえば結婚している人ばかりで、「まだ焦らなくても大丈夫だよ」や、「結婚しなくても大丈夫だよ」などと言ってくれたものですが、正直、「既婚者に言われても説得力ないなぁ」と思っていました笑。


本書を通して、2人は「結婚しなくても大丈夫。こっちの選択肢も楽しいよ!」と言ってくれているようです。

もちろん、2人ほど気の合う、最高のパートナーを見つけるのは簡単なことではないかもしれないかもしれません。

でも、結婚前の私がもしこの本を知っていたら、こんな素敵な人生の先輩の存在を知っていたら、どんなに救われていただろうかと想像せざるをえません。

血縁や婚姻関係に甘えない

家事や猫の世話をともに行い、趣味を楽しみ、お互いに良い影響を与えながら、程よい距離を保ち、必要な時は支えあう著者の2人。

2人の関係が理想的に見えるのは、彼女たちの関係性が血縁や婚姻によって成り立っていないからこそ、お互いが同居生活を維持するために、気を使い、互いを尊重し、思いやっているからだと思います。


同性カップルの日常を描いた漫画『きのう何食べた?』では、主人公のシロさんが、パートナーのケンジさんのために、ケンジさん好みの素敵な朝ごはんを用意したり、おしゃれなカフェでのお茶に付き合うエピソードがあります。

2人は一緒に暮らしているけれど、(日本ではまだ)婚姻関係を持つことができないから、関係維持のために努力をするという趣旨の行動なのですが、『女ふたり、暮らしています。』の2人の姿と重なりました。


夫婦だから、親子だから、分かってくれるはず。私たちはついそう思って一番思いやるべき人を蔑ろにしてしまうことが多いです。

血縁や婚姻といった関係性に甘えることなく、それを維持するために努力することが、お互い良い関係を維持するために重要だなと感じました。自分の生活にも落とし込んでいきたいものです。

新しい家族の形

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このエッセイでは、血縁や婚姻関係に基づく従来の家族観にとらわれない、もっと多様な家族の形があることを教えてくれます。

本書では、著者2人のような友達同士の同居生活だけでなく、結婚しないカップルや、配偶者と死別した人同士が一緒に暮らしていくなど、多様な暮らし方と、それに対する法整備にも言及されています。

従来の家族観にとらわれないライフスタイルを求める人が増えている今、2人の暮らし方は大きな希望となりそうです。


最後に、キム・ハナさんが(女2人、猫4匹)という化学式を挙げて新しい家族の形について言及する引用をもって、本書の紹介を締めくくりたいと思います。

私たちは孤独ではない。望遠洞の好意的でゆるやかなネットワークの中にWという一つのモジュールとして存在している。血縁だという理由だけでときどき顔を合わせる親戚より、もっと親しくてうれしい存在だ。

(中略)

生涯を約束し、結婚というしっかりした形で互いを縛る決断を下すのはもちろん美しいことだ。でも、たとえそうでなくても、ひとりの人生のある時期に互いの面倒を見て支え合える関係性があるとしたら、それはまた十分に温かいことではないか。




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今回日本で邦訳が出版されると言うことで久しぶりにブックレビューを書いてみました。

結婚に対して重圧や疑問を感じている人はもちろん、誰かと一緒に暮らしている人も共感や学ぶところがあると思います。

日本でも多くの人に読まれる本になればいいなと思います。


●日本語版(電子書籍も発売済み)


●韓国語版